ARTICLE
業界ニュース
気候変動が害虫発生に与える影響
2026.04.01
― 食品工場・物流施設・製造業におけるリスクと対策 ―
近年、地球温暖化をはじめとする気候変動は、私たちの生活環境だけでなく、害虫の発生状況にも大きな変化をもたらしています。
特に食品工場や倉庫、製造現場においては、害虫の増加や発生時期の変化が「異物混入リスクの増大」へ直結するため、従来以上に高度な管理体制が求められています。 本ページでは、気温上昇や降雨量の変化が害虫に与える影響を整理し、現場で求められる具体的な対策について解説します。
気温上昇による害虫発生への影響
昆虫は「変温動物」であり、外気温に応じて体温や活動量が変化します。
そのため、わずかな気温の変化でも発生状況に大きな影響を及ぼします。
発育速度の加速と世代数の増加
気温が上昇すると、昆虫の発育速度は飛躍的に高まります。
通常、昆虫は「積算温度(有効積算温度)」に基づいて成長しますが、気温が高いほど必要な発育日数が短縮されます。 その結果、年間の世代交代回数(発生回数)が増加し、例えば従来は年2~3回発生していた害虫が、4回以上発生するケースも確認されています。 これにより、個体数は単純増加ではなく「指数関数的」に増加し、
短期間で大量発生へとつながるリスクが高まります。
越冬成功率の上昇
冬季の気温上昇は、害虫の生存率に大きく影響します。
本来であれば低温により死滅していた個体が生き残ることで、翌春の初期個体数が大幅に増加します。 特に問題となるのは以下の点です。
- 越冬個体がそのまま繁殖に移行する
- 春先からすでに高密度状態となる
- 防除開始時点で手遅れになるケースが増える
このように、冬の気温上昇は「見えないリスク」として、翌年の大発生を引き起こす要因となります。
生息域の拡大(北上現象)
温暖化に伴い、これまで暖かい地域に限定されていた害虫が、より北方地域へと分布を拡大しています。
代表的な例としては以下が挙げられます:
- ツヤアオカメムシ
- ミナミアオカメムシ
これらは従来、西日本中心に見られた種ですが、近年では関東以北でも確認例が増加しています。 この「分布域の拡大」は、単に発生地域が広がるだけでなく、
これまで経験のない害虫への対応を現場に求めることを意味します。
飛来害虫・外来種リスクの増加
気温上昇と気流の変化により、海外からの飛来害虫の侵入リスクも高まっています。
- 季節風や台風による長距離移動
- 貿易・物流の増加との相乗効果
- 国内未確認種の侵入
これらは従来の防除計画では想定されていないケースが多く、「突発的な異物混入」や「原因不明の発生」として問題化することがあります。
降雨量の変化と害虫発生の関係
気候変動は気温だけでなく、降雨パターンにも大きな影響を与えています。
極端な降雨や乾燥は、それぞれ異なる形で害虫の発生に影響します。
集中豪雨・台風による影響
大雨や台風は一見、害虫を減少させるように思われますが、実際には以下のような複雑な影響があります。
- 一時的な個体数減少
- 流出後の再侵入・再定着
- 湿度上昇による繁殖環境の改善
- 建物内への避難侵入の増加
特に食品工場や倉庫では、降雨後に屋内侵入が増える傾向があり、注意が必要です。
乾燥環境の進行
一方で、降雨量の減少や高温による乾燥状態も、特定の害虫にとっては好条件となります。
代表的な影響
- 貯穀害虫(シバンムシ類・コクヌストモドキ等)の増加
- ダニ類の増殖
- 粉体原料への発生リスク上昇
乾燥環境では競合微生物が減少するため、害虫が優占しやすくなる点も見逃せません。

農作物への影響と食料リスク
気候変動による害虫の増加は、農業分野にも深刻な影響を及ぼします。
収穫量の減少
研究では、地表温度が1℃上昇するごとに、主要作物の収穫量損失が10~25%増加すると予測されています。
これは以下の要因が複合的に関係しています:
- 害虫による食害の増加
- 病害虫の発生期間の長期化
- 作物のストレス耐性低下
結果として、原材料の安定供給が難しくなり、食品業界全体へ影響が波及します。
品質の低下
高温環境は作物の品質にも影響します。
- 糖度・水分バランスの変化
- 外観不良(変色・変形)
- 保存性の低下
これにより、加工適性や商品価値の低下につながる可能性があります。
衛生害虫と感染症リスク
気候変動の影響は、農業害虫だけでなく「衛生害虫」にも及びます。
媒介昆虫の分布拡大
蚊などの吸血昆虫は、気温の上昇により活動期間が延び、生息域も拡大しています。
- 越冬可能地域の拡大
- 発生期間の長期化
- 個体数の増加
感染症リスクの増大
媒介昆虫の増加は、感染症リスクの上昇に直結します。
- ウイルス保有個体の増加
- 海外由来感染症の侵入リスク
- 局所的流行の可能性
企業においても、従業員の健康管理や衛生対策の観点から無視できない問題となっています。

これからの害虫対策に求められる考え方
気候変動により、害虫は以下のような特徴を持つようになっています。
- 発生時期が早まる
- 発生期間が長期化する
- 個体数が増加する
- 種類が多様化する
つまり、「従来の経験則だけでは対応できない時代」に入っています。
現場で実施すべき具体的対策
今後の害虫管理では、以下の取り組みが重要です。
● 年間モニタリングの強化
ライトトラップや捕虫器を活用し、発生状況を常時把握する
● 発生予測に基づく予防管理
気温・湿度データを活用し、発生前に対策を実施する
● 侵入経路の遮断
建物の隙間・開口部・搬入口の管理を徹底する
● 衛生管理の徹底
清掃・整理整頓により発生源を排除する
● 定期的な専門点検
専門業者による診断と改善提案を受ける
まとめ
気候変動は、害虫の発生構造そのものを変えつつあります。
その影響は、単なる発生量の増加にとどまらず、「異物混入」「品質低下」「企業リスク」へと直結します。 これからの時代に求められるのは、「発生してから対応する防除」ではなく、発生を予測し、未然に防ぐ予防型管理です。 環境変化に適応した害虫対策を構築することが、安全・安心な製品供給と企業価値の維持につながります。