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益虫・害虫の話 (7)〈Part 2〉食の安全を脅かす話題の殺虫剤
2024.03.15
殺虫剤は、もともと害虫防除に用いる化学物質であって、製造及び販売や用法・用量が「法」によって厳しく管理されているものである。
ところが、この所、意外な所で問題を起こしている。記憶も新たなものには、中国製冷凍ギョウザによる殺虫剤中毒事件、三笠フーズの汚染米転売事件および中国産冷凍インゲンの農薬中毒事件などがある。
日本の現状では、農薬や殺虫剤の散布による害虫防除の在り方が、厳しく批判され、その改善対策に取り組む中、上記のような事件が続発するのに驚く。
何故、こんな問題が発生するかを考えるに先立ち、問題になった殺虫剤は、どんな殺虫剤なのか、今一度、ここで見直しておきたい。
メタミドホス
この殺虫剤は、有機リン系殺虫剤のひとつであって、メタミドホスと云う呼称の他にTamaron,Monitorなどとも呼ばれている
この安全の程度を判断する基準の一つに、急性経口毒性のLD50と云う価がある。この殺虫剤のマウスやラットに対するLD50値は20mg/kgと云う強さである。
これは、体重1kgの人が20mgを食べるとその半数、50%に何等かの影響の出ると云う強さである。
しかも、1日摂取許容量(ADI)が、0.0006mgと云う毒性の強さである。また、本来の用途は野菜類の害虫である吸汁性のアブラムシ類の防除剤なのである。
この殺虫剤で問題なのは、日本では農薬登録がなされていないものである事だ。日本では使えないものが混入していたなど、これは残留農薬の問題にふれる以前の話である。
大切な事は、こんな物が紛れ込まない対策も必要だが、ギョウザの具材の栽培にまで逆上り、監視する仕組みの有無を明にする事である。
混入した殺虫剤の量の多少や安全性を論ずる前に、流通の過程でのリスクマネンジメントを確立するのが先なのである。
アセタミプリド
この殺虫剤は、上記のメタミドホスとその作用機構の異なる、ネオニコチノイド系に属するものである。
急性経口毒性のLD50値は、ラットに対して217mg/kg、マウスで198mg/kgとメタミドホスよりも低毒性である。
本品は、1955年に日本でも農薬登録がされていて、使用上の問題は無い。これは、モスピラン(Mospilan)と云う名称で上市されている。
温室栽培の野菜、果実類のアブラムシ類、コナジラミ類の防除に用いられている。
なお、この殺虫剤の一日摂取許容量は、0.071mg/kgである。
この混入が問題なのは、食用に供してはならない汚染米を食用として流通させた事である。
ポジティブリスト制度が導入されている現今、事故米の中には、0.03ppmが検出されたが、心配はありませんと説明する人の思考を疑いたい。
事故米は、食用として流通させてはならないものであって、この中の農薬を安全性を論ずる必要の無い事である。
食の安全・安心の為に、農薬の使用を極力抑え、良い米を消費者に提供する努力を重ねる生産者にとって、聞くに耐えない言葉である。
相次ぐ、農薬問題は、量や安全性などの論を交わす前に、「何故」こんな事が起こったのか、是正のための「何故」、「なぜ」の反復が必要なのである。
林 晃史氏
元千葉県衛生研究所次長
東京医科歯科大学医学部非常勤講師