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益虫・害虫の話 (8)〈Part 2〉何処が違うのか、農薬と殺虫剤
2024.03.15
この所、食品の中に在るはずの無い化学物質が混入した事故が続いた。このような事故の解説記事に、〝農薬と同じ成分の殺虫剤が〟と云うようなものがある。
それを見た多くの人は、「農薬」と「殺虫剤」は何処が違うのか、正確には解らないようだ。
現実に、農薬とはどんな物ですかと聞くと、それは「殺虫剤」でしょうと云う回答が、返って来る。なかには、有機リン剤でしょうと云うものもある。
また、このような人達に、殺虫剤の中には生活の場で使用する殺虫剤と農場など野外で使用する殺虫剤と同じ成分のものが在ると云うと、一様に驚く。
では、農薬と殺虫剤の違いはどこなのか、良く知られた化学物質で紹介する。それに先立ち、「農薬」と云うものを再確認して置きたい。
農薬とは、農作物の病害虫からの保護を目的としたもので、「農薬物(樹木及び農林産物を含む)を害する病菌、線虫、ダニ、昆虫、ネズミ、雑草などの動植物または、ウイルスの防除に用いる殺虫剤、殺菌剤、殺鼠剤、除草剤及び植物の生理機能の増進または抑制に用いる植物成長調節剤並びに捕助財」と定義されている。この中には病害虫防除に用いる天敵も農薬とみなされている。
以上の定義からすると、「殺虫剤」は農薬のひとつである。また、農薬の運用は「農薬取締法」により管理されている。
この農薬のひとつである「殺虫剤」はその物質の特性によって次のように分類されている。
1) 天然殺虫剤
礦物起原、植物起源
2) 有機リン系殺虫剤
3) カーバメート系殺虫剤
4) ピレスロイド系殺虫剤
5) ネライストキシン系殺虫剤
6) ネオニコチノイド系殺虫剤
7) 昆虫成長制御剤
8) その他の合成殺虫剤
9) 殺ダニ剤
10) 殺線虫剤
11) 生物農薬
12) 誘引剤
以上が、今日、市場にある殺虫剤で、1)~7)の系統のものが知られている。
また、その用途は、農林水産業および公衆衛生方面(防疫および家庭用)と極めて広範囲である。
この用途範囲の広さが、殺虫剤を判り難くしている。これを明確する材料とし、最も関心の高い有機リン系殺虫剤のフェニトロチオンで解説する。(次回に続く)
林 晃史氏
元千葉県衛生研究所次長
東京医科歯科大学医学部非常勤講師