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益虫・害虫の話 (9)〈Part 2〉何処が違うのか、農薬と殺虫剤(2)
2024.03.15
前回、農薬の大分類を紹介したが、今回は、有機リン系殺虫のフェニトロチオンで、その詳細を解説する。
その前に、そもそも有機リン剤とは何のかを整理する。この有機リン剤が、農薬として注目されるようになったのは、今からおおよそ71年前の1937年に西ドイツのゲルハルト・シュラーダー博士により、生物学的活性のある有機リン化合物の一般構造が、提示されてからである。
その生理活性を持つ有機リン酸化合物は、添付画像の一般式で表わされる酸無水物である。

この式で、次の条件を満足している場合に生理的活性なリン酸エルテルが得られるとしている。
*5価の「リン原子」は、硫黄(S)または酸素(O)と直接結合しなければならない。
*R1及びR2はアルコシ基、アリル基または、アミノ基である。
*アシル基は無機または有機酸の残基、例えばフッ素、シアン、ロダンなどであるか、あるいは酸性の基、エタノールやメルカプタンである。このような考え方を背景にして、合成されたフェニトロチオンは有機リン化合物である。
フェニトロチオン(Fenitrothion):フェニトロチオンは、一般名で商品名をスミチオン(Sumithion)と云う。なをこの他に、ガットサイドS、サッチューコートS、ガットキラー、スミパインなどと云うものがある。
化学名は、o,o-dimethyl-o-4-nitro-m-tolyl phosphorothioate である。農薬ではMEPと称されている。
物理的化学性質は、常温で液体、比較的安定な化合物である。また、問題の安全性は動物での急性毒性が比較的低く添付画像の表の通りである。
それに、スミチオンは哺乳動物の体内で速やかに代謝・分解され、容易に体外に排出される。
これが、フェニトロチオン、スミチオンと云う生理活性を持つ有機リン酸化合物なので、虫の殺滅を目的に開発されたものである。
呼称としては、〝殺虫剤〟と云う農薬であり、殺虫剤と称する医薬品・医薬部外品とするべきである。
主成分は、全く同じであっても使う場所が違うため、農薬登録であったり医薬品の認可となって、理解しにくくしている。
スミチオン乳剤は、農業用であっても防疫用であっても〝スミチオン乳剤〟である。相違点は登録と認可と云う決裁条件の違いと、監督官庁、大臣の違いである。
また、関連する規制法令が前者では、農薬取締法、その施行令と施行規則および関連通知などである。後者では、薬事法、その施行令と施行規則および関連通知などである。
その他の相違点は、対象害虫が違うに過ぎない。化学物質を判りにくくしているのは、監督官庁の多様性にある。
フェニトロチオン、スミチオンは、殺虫剤なのである。
林 晃史氏
元千葉県衛生研究所次長
東京医科歯科大学医学部非常勤講師