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益虫・害虫の話 (10)〈Part 1〉ユスリカとは、いったい何か
2024.03.15

食品取扱い施設等の環境調査で、意外に捕獲数の多い虫が、「ユスリカ」と称する飛翔昆虫である。
この虫は、水棲昆虫の仲間なので、河川、池沼等に近い地区での多発には驚かない。しかし、水系の目立たない山間地の施設で、この所、捕獲数が多い事に驚く。
また、「カ」とは、夏の虫だと思い込んでいる所為が、冬から早春にかけて姿を見せると、一瞬、戸惑を感ずる。
私達が、この虫と関係が始まったのは、そんなに古い時期では無く、今から40年前の昭和44年(1969年)頃からである。
当時は、「公害問題」が盛んに報道されていた。ユスリカは、発生の要因が「公害」とは浅からぬ因縁をもっている。先ず、この虫の分類上の位置付を明らかにしたい。
この虫は、双翅目、直縫亜目の糸角群、ユスリカ(揺蚊)科に属する完全変態をなす虫である。
ユスリカの種類は、世界でも約10,000種が知られていて、我が国においてもウミユスリカ、ヤマユスリカ、モンユスリカ、エリユスリカ、コナユスリカ及びユスリカの6亜種、その種類が1,000種を超す。
しかし、殆どのユスリカは、通常の環境条件下では、人に影響を及ぼすような事がない。
では何故、ユスリカが問題になり始めたのか、それには、次の理由がある。
その大きなものの一つが、生活の都市型化である。都市の発達は、都市の河川や周辺の湖沼の水質に影響を及ぼし、それがユスリカ発生の温床となった事である。
都市河川のユスリカで最も良く知られているのは、東京都内を流れる「神田川」流域のユスリカである。
東京都は、10数年にわたって神田川流域のユスリカ対策に苦汁を強いられた。
大量発生するユスリカは、民家の灯火に向かって飛来し、食事が出来ない、寝具、家具、洗濯物、壁などを汚損する被害を与えた。
また、流域周辺の飲食店、商店街、塗装工場等で、営業に支障をもたらせた。この様な例が、全国の都市でも見られるようになり、「ユスリカ」が広く一般に知られるようになった。
いずれにしても、ユスリカは、昭和の代表的な問題の虫である。以上のように、ユスリカは発生の場所によっては、問題虫であるが、厄介な事に、「幼虫」と「成虫」とでは、その評価が違う事である。
ユスリカ問題は、我が国に限った事ではなく、米国のフロリダ州サンフォード市は、市の中心部がモンロー湖から至近距離にあって、ホテルや住宅のユスリカ対策のために年間100万ドルを支出したと云う。
ユスリカは、人を刺咬・吸血をすると云う、直接的な被害をもたらせないが、異常多発生と云う性質を有した問題虫である。
このユスリカの功罪について、次回紹介するが、今回は、ユスリカと云う「虫」の存在を紹介した
林 晃史氏
元千葉県衛生研究所次長
東京医科歯科大学医学部非常勤講師