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益虫・害虫の話 (11)〈Part 1〉毒虫とはどんな虫なのか
2024.03.15
虫とは何か?このとらえ方は、その人の背景によって大きく異なる。この表題の「益虫」や「害虫」と云う評価も、そのひとつであって、何れも人間の側からのものである。
虫は、万を超える種類があって、「人間」と直接的に関わりのあるものは、非常に僅かである。
従って、日頃、接する機会の少ない虫は、唯の虫である。だが、この虫の面白い所は、同じ虫であっても、成虫の時と幼虫の時で、その評価の異なる場合が、ある事である。
こんな虫が、人の日常生活の場に余りにも近いと「毒虫」と云う表現に変わることがある。この「毒虫」と云う感覚は、害虫よりも恐ろしさを増す。
毒虫とはどんな虫?
この毒虫については、「毒虫の話」(梅谷献二・安富和男著、昭和44年5月10日、北
隆館)と云う著書があって、これにやさしく、判り易く、そして面白く虫達が紹介されている。
この本は、広く一般の人達に読まれ、当時、生活の場の虫を知るための格好のものであった。筆者も、今から40年前に、この書番を読み、著者の博識ぶりと筆力に、なんとも素晴らしさを感じ、改めて衛生害虫を見直した。
この本の中に、毒虫の戸籍簿の項があって、その解説が、蚊やアブなどのストローを持つなかま、ハチのような毒矢を持つなかま、アリ類のようなペンチを持つなかま等と特徴的に別けての解説には、納得するものがあった。
毒虫とは、人を刺したり、人を噛んだり、吸血したり、悪臭を発するものが、毒虫だと云う事が、すんなりと判った。
しかし、今では、平素なんでもない虫が、たまさか食物に迷入していただけで、問題虫とされたりする。
なかには、虫が発生しても不思議では無い食材から虫が出て、これを問題視される状況である。
今、エコの時代の最中である、もっと毒虫を理解し、視点を変えておおらかに虫を眺める必要がある。そのためには、「季節の虫」を賞でる視点が必要だ。
この真冬の中、枯木になる虫がある。葉の落ちた枝にぶら下がる「みの虫」は、冬景色をおりなすものである。

冬期に目立つミノムシ、此のムシ、毒虫とはほど遠い文学的な香りがする
このミノムシはミノガ(避績蛾)科の幼虫の総称で、このグループには350種が知られている。
わが国では、ミノガ、ヒメミノガ、ネグロミノガ、オオミノガ、チヤノミノガ、などが知られている。これらは、梨、梅、柑橘、茶、桑などの害虫である。
幼虫は、蓑の中で越冬し、翌春には食害活動をする厄介者だが、冬木は枯木の花である。
この蓑内の幼虫は、なかなかの珍味で、バター炒めは、酒の友となる。さらに、驚いたことには、虫歯の薬になるという。これを黒焼きにして、虫歯の穴につめると痛みがとれるとのこと。
また、肺病の薬にもなるようで、黒焼きにしたものを粉にし、1日3回、1ヵ月も服用すると治る由。さらには、心臓病に効果があるようである。これは、ミノムシの幼虫を甘草と共に煎服するとのこと。
冬の枯木の花は、季節の風情越へて、薬用にも供されたという。冬期は、春から息吹を宿すと云うが、この季に施設周辺の虫達を視点を変えて観察すると良い。
林 晃史氏
元千葉県衛生研究所次長
東京医科歯科大学医学部非常勤講師