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業界ニュース
益虫・害虫の話 (11)〈Part 2〉ピレスロイドを用いた製剤
2024.03.15
農薬と殺虫剤の違いを3回にわたって、話を進めて来たが、今回は、それを用いた製剤について紹介する。
「製剤」とは何か?これは、ひと口で云うと生理活性を持つ物質を目的とする用途に対し、使い易く、利用目的を充分に満たすように、「加工」したものである。
この製剤を大別すると固形製剤と液性製剤とに別けられる。この製剤化にはもともとの物質「原体」の特性が大きく関与する。
今回は、殺虫成分のピレスロイド系化合物を中心に紹介する。
このピレスロイド系化合物は、温血動物に対し低毒性で、環境中での分解性も高く、安全性の高い物質である。
このような性質は、農業の場面よりも人の生活の場での活用が相応しく、家庭用殺虫剤の分野で繁用されるに至った。
家庭用殺虫剤の主要対象は、非常に多様であるが、最も身近な問題種と云えば、ハエ、カ、ゴキブリ、ノミ、シラミ、トコジラミ(ナンキンムシ)などである。
このような虫退治に用いる製剤には、粉剤、油剤、乳剤、燻煙剤、エアゾール剤、蚊取線香などがある。
家庭用殺虫剤で、最もシンプルで、それらしさを感じさせるのが、「蚊取線香」である。
また、この蚊取線香は、季節感を漂わす製剤で、高機能なもののひとつである。この蚊取線香について紹介する。
この製剤で、高機能なもののひとつである。この蚊取線香について紹介する。
この製剤の発想が出来たのは、江戸時代の末期と考えられる。これを証拠だてるものに、次の様な小林一茶の俳句がある。
〝線香の 一本ですむ 蚊やり哉〟
この〝一本ですむ〟と云う所に、線香の斬新さがうかがえる。この線香が出るまでは、植物を燻焼して蚊の攻撃を防いでいた。防虫菊(天然ピレトリン)が、主成分として蚊取線香に使用されるようになったのは、明治の末期である。
しかし、当時の蚊取線香は長棒型(今日の佛事用の線香と同型)で、現在の製品のように渦巻型になったのは、大正時代に入ってからである。線香製造の初期の頃は、人手によって、一つ一つが巻きあげられていたが、大正3年頃に機械による打抜き線香が出来るようになった。

蚊取線香の構成と成分は、図1.の様な原材料で構成されている。
構成成分の混合割合は一定ではないが、標準的なものは折衷剤が1%内外、木粉20~30%茎粉20~30%、その他が数パーセントである。
これら基剤が、燃焼時間、有効成分の揮発率などの製剤機能に大きく関与して来る。1回の点火で、数時間にわたって効力を維持する機能は、他の製剤を大きく異なる所で、ここに科学が存在する。
次回この事を言及する。
林 晃史氏
元千葉県衛生研究所次長
東京医科歯科大学医学部非常勤講師