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益虫・害虫の話 (12)〈Part 2〉ピレスロイドを用いた製剤(2)
2024.03.15
今日、農薬、殺虫剤、化学物質は、とかく嫌われ者であるが、蚊取線香に対しては、好意的な眼で見られている。
それは、頼り気ない「煙」が、立ちのぼる弱々しい所に同情が集ってのことかもしれない。
今回、この弱々しい中にも、しっかりとその役割を果たしている、その秘密について紹介する。
渦状に巻いた蚊取線香の重要な部分は、燃焼温度であって、この温度が、有成分を揮散させるエネルギーである。
蚊取線香の着火点から距離と温度の関係を実測すると図の通りで、温度勾配がある。

(蚊取線香の着火点よりの温度分布と有効成分の揮散帯について)
その重要部分は、着火点から約2センチの間にある。この線香の先端の着火点の最高温度は約700℃であって、この部分における有効成分は完全に熱分解し、殺虫力は無い。
また、着火点から約1.8センチの部分は50℃であってこの温度では、有効成分は全く揮散しない。
有効成分のアレスリン(合成ピレスロイドの第1号)は、温度が120~160℃に達すると揮散する性質を持っている。
この事からすると蚊取線香の有効成分が出ているのは、どうも着火点から約1センチの部分の120~350℃の温度帯に在ると考えられる。
また、蚊取線香の「煙」は約200℃付近で発つ(発生)ことから有効成分の能率的な揮散帯は、この部分とされている。
人を吸血する蚊は、この煙に接触することで生理機能を失い、死亡に至る。この煙が漂う範囲が、有効領域である。
この煙の量が、希薄なゾーンは、蚊を寄せ付けない作用を発揮していると云う。このようなグレーゾーンのある所が、蚊取線香の面白い部分で、これが「優しい」効き目を発揮する秘密であった。
なお、この煙の中には、有効成分の他に、O-クレゾール、フェノール、アセトフェノール、アセトアルデヒドなどの多くの化学成分が含まれている。
蚊取線香はこれらが、相互に作用しあって殺虫力や蚊を寄せ付けない忌避力を発揮するメカニズムを持つ製剤である。
今、ピレスロイド製剤は、ピナミン蚊取線香に始まり、電気蚊取器やファン付き蚊取器へと発達した。有効性を発揮するエネルギーを熱から風に替えて発達した。
これが、ピレスロイドの開発に伴い、自然蒸散にまで至った。世に「蠟燭の科学」と云う書物があるが、ピナミン蚊取線香こそ「蚊取線香の科学」といえる。
これが、家庭用殺虫剤と云う優しさである。