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益虫・害虫の話 (13)〈Part 1〉今、話題のムシ、ミツバチ
2024.03.15

食の世界では、「虫」の果している役割が意外に大きいにも関わらず、その実状が余り知られていない。
今、その「虫」が不足で、果実農家が悲鳴を上げていると云う。その問題は問題の虫は、「ミツバチ」と云う訪花昆虫である。
このミツバチと人間の密接な関係は、紀元前に遡るもので、今でも「養蜂業」にとっては、大切な家畜である。
それもあるが、メロン、サクランボ、イチゴなどの栽培には、欠かせない「虫」で、農家にとっては、この不足は大変な事である。
また、近年、都市部の公園の樹木の洞などに営巣する事が多くなり、思いがけない事故をもたらす事もある。
そんな例のひとつに、ミツバチの春先の分蜂の折に、家屋の周辺や庭の木にハチの大群が、ボール状に塊り(分封)を造り、その除去相談が増えている。
さらに、極めて稀な話だが、人が分封のミツバチの大群に襲われて死亡した例がある。いずれにしても、夏から秋にかけて巣を外敵に襲撃され、逃げだした蜂が空中に乱舞している様は、すくなからず恐怖感を抱かせる。
では、この「ミツバチ」とはどんな虫なのか、その概要を紹介すると次の通りである。
ミツバチの生物学的位置付けは、節足動物門、昆虫網ハチ目(膜翅目)、ミツバチ科に属する虫である。
日本でよく知られているのは、明治10年頃から導入されたヨーロッパ原産のセイヨウミツバチと在来種のニホンミツバチの2種類である。
ミツバチの生態:
ミツバチは、一匹の女王蜂を中心に、数千から数万匹の〝働き蜂〟繁殖期には2000から53000匹の〝雄蜂〟でハチ群を構成している。
ハチの活動は、3月から4月に越冬していた〝働き蜂〟が、蜜や花粉を集める事から始まる。
また、巣内に王台が作られ、新女王が誕生するが、新女王の羽化する直前に、旧女王は、ハチ群の半数を連れて新しい巣造りに飛び立つ。これが、ハチの世代の交代で、政権の交代である。
セイヨウミツバチの成虫の寿命は、女王蜂が1から3年で、最長8年という例もある。
働き蜂は、最盛期が15から38日、中間期が30から60日、越冬期が140日である。なお、雄蜂の寿命は、21から32日と比較的短い。
ミツバチが必要な果実:
果樹農家は、授粉用のセイヨウミツバチを輸入に依存していたが、この所、ミツバチ群が大幅に減り、イチゴ、スイカ、ナシ、リンゴ、サクランボ、メロンなどで不足をきたし、収穫量への影響も心配されている。
参考までに、この授粉用のミツバチの価格だが、1箱6000匹入りが1万8千円と云う価格である。
今、蜂不足で、人工授粉に切換えた所があるが、能率が悪く経営効率を大きく圧迫している。
たかが、「ミツバチ」と云うが、ミツバチは農薬生産に大きく関わっている重要な資材なのである。
今日、世界的にミツバチが、〝大量死〟する現象が続き、大きな問題になっている。その原因として、昆虫の伝染病や農薬などが、上げられているが、本当の所は、良く判っていない。
ミツバチは、授粉用や産物の蜂蜜の他、ハチ自身も皮膚病薬、尿の抑制、膀胱の刺激などに有効と云われている。
林 晃史氏
元千葉県衛生研究所次長
東京医科歯科大学医学部非常勤講師