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益虫・害虫の話 (14)〈Part 2〉防虫・虫除け剤の変遷

2024.03.15

かつては、「米櫃」の虫が一段落すると「衣替え」の季節となったものである。昨今、地球温暖化が声高に述べたてられた所為もあってか、こうした生活の中の季節感が薄らいで来た。
 そうした中でも、依然として過去の習慣が生き残っていて、時に頭を擡(モタ)げる事がある。
 そんな例のひとつに、「防虫剤」なるものがあって、今日、意外な事で話題となった。今回、かつては生活の場において大事な役割を果たしていた、生活雑貨の「防虫剤」を振り返ってみたい。
  防虫剤とは何か
 防虫剤(mothproofing agents)とは、どんな性格のものだったのか、復習しておきたい。
 それは、通常の殺虫剤と少し違い、虫を殺すためのものでは無く、虫や害虫を寄せ付けないために用いる薬剤、化学物質である。
 また、ひと言、説明を加えるとそれは、農薬取締法や薬事法の適用を受けない殺虫剤と云う位置付けである。
 なお、これを形式的に類別すると「家庭用殺虫剤」のグループに属するもので、さらに用途から整理すると「人体用」と「衣類用」のふたつに分けられる。
 この様に、防虫剤は、生活の中に溶け込んだ製品ではあるが、薬剤としての位置付けは単純ではない。
 この防虫剤が、何故、にわかに一般の関心を集めるようになったのか、それは、昨年、国民的な食品の「カップめん」から防虫成分のひとつ、パラジクロロベンゼンが検出された事故の報道があってからの事である。

防虫剤は、生活に密着した製品であるに関わらず、あまり深く知られていない日用雑貨である。
  防虫剤の用途
 防虫剤は、身近な生活雑貨でありながらその用法・用途に関する認識が、意外に曖昧な製品である。
 一般に、生活の場における「害虫」と云うと多くは、ハエ、蚊、ゴキブリ、ノミ、シラミ等を思い起こす。しかし、最も被害を実感させるのは、繊維害虫と称する虫達によるものである。
 その繊維害虫は、鳥類や哺乳動物類の巣、動物の死体、肉食動物の排泄物などを発生源としている虫である。
 幼虫は、衣類、毛布、毛皮、毛織物、敷物及び動物標本などを食害する。なお、その主要な種類は、イガ、コイガ、ヒメカツオブシムシなどである。
 また、これらの虫は、収納庫、タンス、クローゼット等の中で、人眼につかない場所で加害活動を行う。従って、ハエや蚊のように頻繁に人の前に姿を見せる事がすくない。
 この様に、防虫剤は、使用対象が人も目線の遠くにあるため、その性質があまり詳しく知られていない。
 だが、この「虫除け」、虫を近づけないためには、殺虫剤とは異なる性質や機能が必要不可欠なのである。
 その要求を満たす成分のひとつが、問題になったパラジクロロベンゼンである。
  防虫剤の種類
 防虫剤は上述の繊維害虫に対して、用いるものであるが、どのような成分があるのか、整理すると次の通りである。
 それは、パラジクロロベンゼ系、ナフタリン系、植物成分系およびピレスロイド系の四群に大別される。
 これらの共通した性質は、「昇華性」や「揮発性」に富む事である。今、広く用いられているのが、パラジクロロベンゼン系であるが、人の生活の場やそのスタイルの変化もあって、その変換が迫られている。
 今、「虫除け」の材料として、ピレスロイド系化合物が、大きな役割を荷いつつあると共に、「虫除け」の考え方も変わりつつある。
 順を追って、パラジクからピレスロイドへの道を述べたい。

林 晃史氏
元千葉県衛生研究所次長
東京医科歯科大学医学部非常勤講師

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