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益虫・害虫の話 (15)〈Part 1〉ハネカクシと云う有毒甲虫の話
2024.03.15
生活環境が変わると問題になる虫事情も大きく違って来る。こんな虫のひとつに「アオバアリガタハネカクシ」と云う小型の有毒甲虫がある。

ここ数年、どうした訳か、私の所に食品工場等から混入異物の虫としての相談件数が増えている。
この虫が、世間に知られているようになったのは、昭和37年に関東の古河地域(赤麻遊水地帯)で異常発生して以来である。
当時、この地域の眼科開業医に、この虫による眼瞼皮膚炎で171名もの患者が訪れたと云う。
なお、これを機に、毒作用や眼障害に関する研究が進み、この虫の事が明らかになった。
では、このアオバアリガタハネカクシと云う虫とは、どんな虫なのか、ここで、認識を新たにしておきたい。
アオバアリガタハネカクシと云う虫
この虫は、皮膚炎原因甲虫類(Beetles causing dermatitis)のひとつで、学名を
Paederus Fuscipesと云う甲虫である。
体長が6から7mmの大きさで、アリに似た姿形をしている。翅は、短く青緑色、中胸が橙黄色できれいな甲虫である。
この棲息場所は、水田、畑、池沼周辺、川岸の湿った草地である。幼虫は雑食性であって、小型の昆虫、野菜、雑草類を餌としている。なお、成虫は、肉食性の傾向が強い。
発生時期は、4月から10月で、多発するのが6月、7月で灯火に飛来る。活動期が過ぎると雌成虫は集団で越冬する。
毒の研究史
アオバアリガタハネカクシが、ハネカクシ症、ハネカクシ皮膚炎、線状皮膚炎、眼疾をもたらすのは、その毒素、ペデリン(Paderin)である事が知られているが、日本がその究明に大きな役割を果したと云う。
この毒素の研究を巡っては、毒の発見史に面白い確執があった。このアオバアリガタハネガタハネカクシの最初の被害の発生を1915年にボルガ河下流であったと云う説とそうでは無いとする説で論議を呼んだ。
結論は、アオバハリガタハネカクシに毒があるらしいと世界で最初に報告したのは、中国の李時珍・本草網目1590年で、次いで1912年に南米ブラジルのブラジル産アオバアリガタハネカクシの研究が報告されている。
したがって、ロシアよりも南米大陸が先だったとなった。研究史の世界では、どちらが先でも良いと云う訳にはいかなかったようだ。
なお、毒物質を決定したのは日本であると云う。この毒については、次回、紹介することにする(つづく)
林 晃史氏
元千葉県衛生研究所次長
東京医科歯科大学医学部非常勤講師